深い深い森の奥は太陽が少しずつ昇っていくにつれ、僅かな光が差し込み始めていた。
特に“此処”は他の場所より開けた場所であり、そして何か不思議な空気が満ちていた。
元々この場所は動物達が近寄らないのだが、今は全くそれらの気配がない。
それは何十人もの人間が無造作に倒れているのと、辺りに充満する錆びた血の匂いのせいではない。
逆に、それなら肉食の動物が集まって来る筈である。
しかし何の気配もないのはこの場所が特別だからだ。
倒れている人間は皆、思い思いの傷を負っていた。
何か鋭利な物で切り刻まれた者、高温で焼かれ身体がどろどろに溶けている者、 あるいはその両方を負った者。
一見して判る事は、全員が絶命しているのだろうという事だ。
その死体の群れの中で、唯一殆ど傷を負っていない女が立っていた。
その女は死体の傍によっては、その死体から出てきた掌に収まる程の白い丸い光を集めていく。
何度もそれを行っていると、死体だと思っていた1人の人間がピクリと動いた。
微かなその反応に女はほんの少し目を見張る。
自分以外は全員死んでいると思っていたからだ。
いや、思っているのではない。知っているのだ。
この惨劇ともいえる死体の群れを築いた人物は、敵と判断した者には一切の容赦をしないという事を。
女は生きていた人物の身体を調べ、その身体に負った傷は全て辛うじて急所を外れている事を知った。
珍しい事だった。
意外だと感じながらも、女はとにかくこの人物の傷を治そうと身を屈めた。
その時に、その人物が苦しそうに口を開いた。
 「あんなの・・・化けもんだ・・・」
恐怖に満ちた、呻く様な声だった。
この台詞を聞き、女は微かに笑う。
 「化け物、か。・・・なまじ容姿が綺麗なだけに始末におえんな」
何処か感情の伺えない声で誰に言うでもなく呟いていた。





これで序章は終わりです。
前の方がきりがいい所がなくて長くなってしまい、今回はそのせいで短いです。
怖いくらい短いですね・・・。
次から本編です。










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