雪合戦




「クリフちゃん!アルベルちゃん!」
昨晩も雪が降り続けたアーリグリフのある大通りに少女の声が響いた。
クリエイションを終え、酒場で飲むか、城門の外に出て身体を動かそうかと考えて歩いていた クリフとアルベルはその声の方へ振り返った。
そこには街の子供たちと遊ぶスフレの姿があった。
元々アーリグリフの厳しい気候のせいで子供たちは外で思い切りはしゃぐ事は滅多にしないのだが、 誰にでも明るく接す事の出来るスフレの影響か、子供たちは皆楽しそうだった。
しかしここでは余りにも有名すぎるアルベルの名前に子供たちは皆驚いた様に動きを止め、 何処か気まずそうにお互いの顔を見合わせる。
けれどクリフもスフレもそんな雰囲気には頓着しなかった。
「何をして遊んでたんだ?」
「鬼ごっこしてたんだよ!それでね、今から雪合戦する事になったんだ」
「へぇ、随分と仲良くなったんだな」
「うん」
スフレはその場でくるりと一回転して見せ、屈託のない笑顔を浮かべた。
ケープがふわりと舞い、軽やかな鈴の音が響いた。
「でね、クリフちゃんもアルベルちゃんも一緒に遊ぼうよ」
「はあ!?何で俺たちがそんな面倒な事を!」
それまでずっと黙っていたアルベルは思い切り不満そうに叫んだ。
けれどスフレも引き返さなかった。
「えぇー?いいじゃん、遊ぼうよー」
「面倒くせぇ!おい、クリフ行くぞ」
そう言い捨てて、踵を返したアルベルだったが、当のクリフはその場でしゃがみこんで不思議そうに質問していた。
「なぁ、雪合戦ってどうやるんだ?」
「えぇ?お兄さんも知らないの?」
信じられないという感じで子供たちは叫んだ。ほぼ1年中雪の降っているアーリグリフに住んでいる 子供たちにとって、雪合戦の遊び方は常識である為にクリフの言う事は信じられない事なのだ。
「ん?まあ俺たちのいた国では雪なんて滅多に降らなかったからな」
お兄さんと呼ばれて気を良くしたのか微かに顔を緩ませながらクリフは答えた。
「私もさっき教えてもらったんだよ」
そう言ってスフレは子供たちと一緒にクリフに説明していく。
その楽しそうな様子をアルベルは拳を震わせながら見ていた。
ファクトリーを出る際に夕食まで2人っきりでいようと言ったのは何処の誰だと心の中で叫ぶが、クリフは楽しそうにスフレや子供たちに囲まれている。
それを見ていると、アルベルは酷い疎外感を感じてしまう。自分はあの輪の中には入れない。何だか拒絶されているみたいだった。
「・・・」
アルベルは足元の深雪を掴んで幾つかの雪玉を手早く作っていった。
そしてそれをクリフに向かって思い切り投げ付ける。
それは寸分違わずクリフの頭に命中した。
クリフは勿論、思わぬ方向から飛んできた雪玉に子供たちも驚いた様に振り返った。
「おい、アルベル。いきなり後ろからってのはずるいだろ・・・っ」
文句を言ったクリフだったが、怒りのオーラを発しているアルベルを見て、思わず口をつぐんだ。
紅い瞳は炎の様に煌めき、殺気にも似た怒りにふわりと髪がなびいている姿は、どう見ても危険そのものだった。
「ア、アルベル・・・?」
クリフは上擦った声で様子を尋ねようと名前を呼ぶが、何も答えてくれない。
代わりに再び雪玉を投げ付けられる。慌ててクリフがそれを避けるとアルベルは痛烈な舌打ちを漏らした。
「避けんじゃねぇ!」
「おい、一体どうしたっていうんだよ!?」
アルベルが怒っている理由が分からず、心底困った声で尋ねるが、また雪玉を投げ付けられた。
とにかく何とかしようとクリフも適当に雪玉を作ってアルベルに向かって投げてみた。
しかしアルベルは簡単に避けてしまう。
更にはいつの間にか再び作っていた雪玉を投げ返された。
雪に慣れている為にクリフと比べてアルベルは危なげなく動ける。
普通の道の上にいるかの様に走るので、分が悪いと判断したクリフは距離を取ろうとしてその場から走り出した。
「逃げるな!」
「無茶言うなって!」
逃げるクリフを当然の様にアルベルは負い掛けて来る。
そんな2人を子供たちはふざけて遊んでいるかと思ったのかきゃあきゃあ言いながらクリフとアルベルから離れ、子供たちも互いに雪玉を投げ合い始めた。
「これで終わりだ!!」
木の傍まで追い詰めたアルベルは勝ち誇った様にそう叫び、渾身の力を込めて雪玉を投げた。
しかしその雪玉はクリフに当たる事なく、軌道を大きく外し、頭上の木の枝に当たった。
「どこ狙ってんだ・・・・・・うわっ!?」
そう言って笑ったクリフの上に木の枝に降り積もっていた雪が振動で大量に降ってきた。
予想外の事だったので避けられず、まともに被った。更には雪の重さで尻をついたクリフに時間差でまた雪が降ってきた。
頭から雪を被り、足元まで雪が降り積もっている自分の間抜けな姿にクリフは溜息をついて頭を掻く。
狙った本人もここまで雪が落ちて来るとは思わなかったのか、呆気にとられた表情を浮かべている。
「・・・っ・・・、あははははっ・・・!」
けれど、雪まみれなクリフを見ている内にアルベルは思わず声を出して笑い出す。
そこからは先程までの危険な怒りは何処にも感じられない。
思い切り笑われたクリフは苦笑しつつもそんなアルベルを見て内心嬉しくも思っていた。
戦闘の時は別として、元々あまり感情が表に出ないだけに、こんな未だに笑い続けるアルベルは珍しい。
「くくっ・・・阿呆だな・・・」
そう言うアルベルの声はとても穏やかだった。
クリフは漸く笑いが収まり、自分の目の前まで来たアルベルの腕を掴んで引っ張った。
「っ!?」
アルベルの細い身体が引き寄せられる様にクリフの腕の中に納まる。
突然の感覚にアルベルが驚いている間に自分の足の上に座らせた。
「何であんなに怒ってたんだよ?」
「・・・別に」
答える必要はないとばかりにそっぽを向くアルベルにクリフは笑った。
「妬いてたんだろ?」
「なっ・・・!」
一気に顔を赤らめたアルベルにクリフは嬉しそうに笑い、納得した様に頷いた。
「そういう事か」
「何勝手に納得してやがる!妬いてる訳ねぇだろ!」
アルベルは必死になってそう言い返し、じたばた暴れだした。
足の上で暴れるアルベルをクリフは頭を撫でて落ち着かせようとする。
クリフに頭を撫でられる事は好きでも、その余りにも子供扱いの様な仕草にむっとしたアルベルはすぐに黙り込んだ。
「たまにはこういうのもいいかと思ったんだよ」
「ガキたちと雪合戦が?」
「こんな事になっちまったが、アルベルの珍しい笑顔が見れたからな」
クリフのその言葉で、アルベルはクリフの行動を理解した。
「それが目的か」
呆れた様に言うと、クリフはにやりと笑った。
「そうだ」
「そういう事か」
何もかも理解したアルベルとクリフは顔を突き合わせる程近くで、お互いくすりと笑い合う。
「ぶっ・・・!」
「冷てっ・・・!」
2人の間にいい雰囲気が流れ始めた時、突然クリフの頭とアルベルの腰に雪玉が当たった。
すっかり周りの状況を忘れていた2人が驚いて振り返って見ると、そこには両手に雪玉を持って笑うスフレが子供たちを引き連れて立っていた。
「きゃはは!クリフちゃんもアルベルちゃんも隙だらけだよ!」
呆然とする2人に向かって、してやったりという感じでにっこりとスフレが笑う。
今になって漸くここが人前である事を思い出したアルベルは怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にして立ち上がった。
いつの間にかその両手には雪玉が握られていた。相変わらずの早業だった。
「・・・いい度胸だ、クソ虫が!」
クリフが何かを言う前に、アルベルはスフレに向かって雪玉を投げていた。
身のこなしの軽いスフレは恐ろしく速く飛んでくる雪玉を軽々と避けてしまう。
その事にムッとしたアルベルに向かって雪玉を投げるが、アルベルもあっさりと避けた。
その間にもスフレは子供たちと一緒に充分距離を取った場所へと逃げていく。
「クリフ!何ボーっとしてる、追いかけるぞ!」
怒っているというよりは勝利を得ようと燃えているアルベルは後ろにいるクリフにそう言うと、さっさと走り出していた。
何も言えずに見送ったクリフは苦笑しながら立ち上がる。
年齢的には立派な成人であるアルベルだが、自分とは一回りも年が違うせいか、スフレや子供たちでなく それを追いかけるアルベルも微笑ましく見えた。
昔誰かと雪合戦をして遊んだのだろうか。
アルベルの動きは身体能力が高いというだけでなく、慣れているようにも見えた。
子供の時に雪合戦で遊ぶアルベルを想像しながらクリフはあの輪の中に入っていった。






「すまん!アルベル」
前日に雪が降った日の夜、屋敷に帰ってくるなり父親のグラオ・ノックスは勢いよくまだ幼い息子のアルベルに謝った。
頬を丸々と膨らませて拗ねるアルベルはぷいっと顔を逸らす。
一筋縄ではいきそうにないその頑なな姿にグラオは深い溜息を吐く。
「・・・オレが急用でアーリグリフに行ってる間に他の子供たちと遊ばなかったのか?」
アルベルと目線を合わせる為にしゃがんでいるグラオはほんの少し首を傾げながらそう尋ねると、 アルベルはこれ以上ないだろうというくらい膨らんでいた頬を更に丸々と膨らませる。
ただ、拗ねていただけの表情に憤慨の色が混じった。
感情を高ぶらせると特によく分かる父親譲りの強い意志を宿した紅い瞳がグラオを見上げる。
「あいつら、父さんが疾風の団長だからっておれにも遠慮するんだ!」
そんなやつらとは遊びたくないと続けたアルベルにグラオは困ったように笑った。
疾風団長である自分の地位もあり、アルベルには親しい友人が少ないという事を知ってはいるが、 もっと沢山の人間と知り合って欲しいと考えているグラオにとってそれは複雑なものだった。
そんな父親の心情を察したのかどうか、アルベルは腰掛けていたベッドから降り、目の前にいるグラオの服の端を掴んだ。
「おれは、大きくなったら父さんみたいに強くなるんだっ」
父親の服を強く握り締めて、笑うアルベル。
その瞳は憧れと未来への希望にきらきらと輝いていた。
ころころと表情が変わるのが可愛らしくて、グラオは微笑みながらアルベルの頭を撫でた。
「明日、晴れたら今度こそ雪合戦しような」
「うん」
2人はお互い笑いながら再び約束を交わした。






何かこのアルベル、子供っぽい・・・?
というかいい大人が雪合戦して、更には追いかけっこ・・・(汗)今度は大人なクリアルを書きたいなぁ。
そして最後にはやっぱり甘々。私の書くクリアルは甘いのが基本なのだろうか・・・?
私の中のグラオさん像は、アルベルを溺愛派です。
凄い可愛がっていたけれど、怒る時は怒る、みたいな。
アルベルもグラオさんが大好きだったと・・・。
とりあえず、そう設定してます。

鬼畜ものも書いてみたいと思う今日この頃。
オリジナルに鬼畜キャラもいるし、それっぽい話も書いた事があるから
頑張れば書けそうな気がします・・・いつか。
それにしても、お題なのでタイトル考えなくていいので負担が減りますね。


2004/12/28




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送