月明かりに眠る




肉の焼ける臭いがする。
嗅ぎ覚えのある嫌な臭いだと思った時に、目の前が炎に包まれた。
その時点でこれが何の夢なのか察した。
9年前の、あの日だ。
目の前に広がる炎を遮る様に、自分の前に立つ男。
自分が最も尊敬する父親、グラオ・ノックス。
あの時の自分はただただ恐怖でその場から一歩も動けなかった。
自分の左腕にも炎が浴び、焼けていく痛みなど全く感じず、次第に人間としての形を変えていく 父親の姿をじっと眺めている事しか出来なかった。
こちらを振り返った顔が、穏やかに笑っていたのがこの瞬間から目に焼きついて離れなかった。




「・・・・・・」
枕に顔を埋めるようにして、アルベルは目を覚ました。
随分と久しぶりの夢。
ここ暫くはずっと見ていなかったのに。
あの後、自分がどうやって帰ったのかは全く覚えていない。
覚えているのは周りからの非難の眼差し。
当然だろう。当時の自分は只の子供で、グラオ・ノックスは当時の疾風団長だったのだから。
どちらが国にとって大事なのか、考えなくとも分かる。
周りの非難はよく分かっていたが、自分は父親がくれた命を粗末にする事は出来なかった。
その為にひたすらに力を求めた。
決して誰にも負けないように。
大陸一のカタナの使い手とまで言われていた自分の今の状況にアルベルは自嘲の笑みを浮かべた。
1人の人間が忘れられずに、団長としての責務に集中出来ないだなんて。
湧き上がる感情を抑えるようにアルベルは枕に顔を沈める。
左腕が痛い。
あの日の大火傷を負ってから、神経が殆ど通わず、動かす事は出来るが痛みは殆ど感じない筈なのに。
無意識に左腕をさすってから、左腕を抱えるようにして身体を丸めた。
『どうしたんだ、アルベル?』
自分を心配する優しい声に、アルベルははっとなって顔を上げた。
しかしそこには誰もいる筈がなかった。
『泣いているのか?』
のろのろと顔を下げたアルベルの耳に、再び聴こえる筈のない声が聴こえた。
夢を見て魘された自分の頭や背中を撫でてくれる手も、
抱き締めて安心させてくれる逞しい腕や胸も、
細くてさらさらな金糸の髪に、深い海のような青い瞳も、
もう、何処にもない。
彼はこの星から出て、元の星へと帰り自分とは違う道を歩んでいるのだから。
一緒に行きたいとも、傍にいて欲しいとも言えなかった自分は
後悔の渦に囚われてここから抜け出せずにいる。
こんなにも後悔するのなら、あの時に素直になっていればよかったのに。
けれどもう、何もかも遅すぎるのだ。
「クリフ・・・・・・」
アルベルは消え入りそうな声で彼の名を呼ぶ。
自然と溢れた、頬を濡らす涙が枕を濡らしていく。
そんなアルベルを慰める様に、窓から見える月と星がただ静かに輝いていた。






暗いですね。しかも短い。
実はこれは、私がテンションが最高に低くて結構ブルーになってる時に書いたものです。
それが影響しているんだろうなーと思います。

でも、オリジナルを書く時と同じようなテンションなので
こういう話は書きやすいともいえます;;
正直に言うなら、こういう方が断然書きやすいのかもしれません。
でもクリアルの場合はラブラブが基本イメージなので!


2005/1/8




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