貴方のために




天気の良い昼前のペターニの街。
皆の食事を作る為にソフィアはファクトリーを訪れた。
パーティーメンバー中唯一料理のレベルが高いソフィアは食事当番をされる事が多かった。
今日も何を作ろうかと考えながら中へ入ると、そこには珍しく先客がいた。
黒から金へとグラデーションのかかった不思議な色合いの髪を2つに結んだ後ろ姿。
アルベルだった。
装備を全て外した楽な格好で何やらまな板と向き合っていた。
「アルベルさん。珍しいですね、ここに来てるなんて」
エプロンを着けながら明るく話しかける。
ソフィアの方を振り返る事なくあぁ、という短い返事。
集中しているらしくいつもより素っ気無くも感じたが、ソフィアは怒ったりはしなかった。
アルベルのこういう態度には既に慣れてしまったのだ。
寧ろ短いながらも返事を返してくれるのは昔と比べたら随分と愛想が良くなったと言っても良かった。
手際よく食材を並べ、包丁やまな板、その他必要な物を用意したソフィアは料理に専念するアルベルを眺め見た。
視線を感じながらもアルベルは手早くフルーツを均等に切っていく。
そして種類別に分け、それが終わったらボウルと泡だて器を用意し、生クリームを泡立て始めた。
アルベルは見掛けによらず大の甘党だった。
その顔が心なしか嬉しそうに見えるのはきっと気のせいではない筈だ。
「・・・アルベルさんって、料理上手ですよね」
ソフィアは料理を作りながら何気なく話しかける。
アルベルは不思議そうに首を傾げた。
「別に、普通だろ」
「そんな事ないですよ!私たちの星では男の人が料理をするなんて滅多にないですよ」
「そっちにはレプリケーションとか言う物があるからだろ」
「まあ、そうですけど、でもやっぱり他の人と比べると上手いですよ」
「・・・修練場では甘い物が食いたくても作れとは言いにくかったからな…」
何度も上手いと言われ、アルベルは照れた様にぼそりと呟いた。
その様子にソフィアは思わず微笑んだ。
アルベルは恥ずかしくなったのか頬を微かに赤く染め、紛らわす様に生クリームを泡立て続ける。
それが終わるとバニラアイスなどを作る時に使うアイスを取り出した。
ついでに冷えた器も取り出し、フルーツや生クリーム、アイスをバランス良く入れていった。
完成するとアルベルは満足そうに軽く息を吐く。
アルベルが作っていたのはフルーツパフェだった。
そして近くの椅子に座り、完成したばかりのパフェを食べ始める。
ソフィアは羨ましそうにそんなアルベルを見ていた。
自分がここにいるという事はもうすぐ昼食だという事なのに。
デザートは別腹というか、それとも何かエネルギー消費でもしていたのか。
そもそもアルベルは前線で戦う戦士なので多少多めに食べようが戦闘でもすればすぐに余分なカロリーを消費してしまう。
そんな事を考えていると、ソフィアはある事を思いついた。
「そういえばアルベルさんってクリフさんには何か作ってあげないんですか?クリフさん喜ぶと思いますよ」
「ぶ・・・っ!?」
ソフィアの発言にアルベルはむせた。
気管の方にも入ってしまったのか、苦しそうに咳き込んでしまう。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「な、な、何でクリフの為に作・・・!?」
苦しかったせいかそれとも恥ずかしさのせいか顔を真っ赤にしてソフィアを見るアルベル。
そういう反応が可愛いんだよなぁ、とソフィアは思うが、それを口にはしなかった。
「何言ってるんですかーっ?好きな人から自分の為に手料理を作ってくれたら誰だって嬉しいものですよ?」
「そういうものなのか・・・?」
今まで戦いに明け暮れ、興味もなかったので恋愛事の知識に乏しいアルベルは疑いもせずにソフィアの言葉に耳を傾けた。
「そうだ、この機会に何か作ってみたらどうですか?私も手伝いますよっ」
攻める様に提案してくるソフィアにアルベルは少し身体を引いた。
しかしすぐに考える顔になった。
頭の中でクリフの姿を思い浮かべる。
大抵一緒にいるので鮮明にその姿を思い出す事が出来る。
優しい青の瞳に見つめられて大切なものを扱うように頭を撫でられるのが、アルベルは好きだった。
基本的にクリフはいつも自分に優しいし、楽しませてくれる。
今日は自分が何かをして、クリフの喜ぶ顔が見たいと思った。
「わかった・・・手を貸してくれ」
お安いご用です、とソフィアは笑った。



その頃そんな幸せものなクリフは1人で街中を歩いていた。
「アルベルの奴、どこにいるんだぁ?」
そうゴチリながら当てもなく歩く。
試しに酒場や武器屋に寄ってみたが、アルベルはいなかった。
アルベルはファクトリーにいるのでいる訳がないのだが、クリフはその事実を知らない。
探し回っている途中で年上の女性に声を掛けているフェイトを見かけたが、面倒事はごめんとばかりに足早にその場から離れていった。
我ながら的確な対処だったと、クリフは思った。
そしてそれから少し歩いた後、クリフはファクトリーの前に辿り着いていた。
「他にいるとしたらここしかねぇよな・・・」
アルベルがいる場所は大抵決まっている。
残る場所はここだけである。
クリフはまず窓から中を覗いてみる。
そこには当然アルベルがいた。
本当は隣にソフィアがいたのだが、クリフには完璧に見えていなかった。
調理台に立つアルベルの姿が見えた途端、一目散で中に入っていった。
「アルベル!」
扉を壊す勢いで開け、クリフはそのままの勢いで後ろからアルベルを抱き締めた。
「こんな所にいたのかよ。すっと探してたんだぜ?」
「ク、クリフ・・・」
余程驚いたのかアルベルはクリフの腕の中で固まってしまった。
そんなアルベルに気付かずにクリフは更にきつく抱き締めてくる。
「折角天気も良いし、デートでもしようかと思ったのによ」
「クリフ、悪かったから・・・離せ」
「離す訳ないだろ?料理作ってるお前なんて珍しいんだからよ」
柔らかな髪に頬を寄せ、耳元で囁きながらクリフはアルベルの身体を撫で回す。
アルベルは身を捩って嫌がるが、クリフの腕の中にすっぽりと収まっている為に殆ど身動きが出来なかった。
その間にもクリフの手は更に不埒な動きを見せていった。
「クリフ・・・っ、止め・・・・・・っ」
「何だよ、別に良いだろ?昨日の夜だって・・・」
クリフはアルベルにより鮮明に思い出させるように低い声で囁いてやる。
案の定アルベルは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
しかしクリフの腕でが太腿をゆっくりと撫で上げ、スリットの中に手を忍ばせてくるのを見た瞬間、アルベルはクリフの腕を思い切りつねった。
「いってぇ!おい、何しやがる!?」
「場所をわきまえろ、阿呆!人前でがっつくな!」
これには流石にクリフはアルベルから身体を離して文句を言うが、アルベルも負けじと言い返す。
「人前・・・?」
不思議そうな口調でクリフはアルベル越しに前を見た。
しかし何も見えなかったので視線をゆっくり下げていくと、先程のアルベルと同じくらいに顔を真っ赤にさせてこちらを見ているソフィアを見つけた。
ソフィアがいる事に気付いていなかったクリフは気まずそうに頭を掻いた。
ソフィアの方もクリフと目が合うと溜め息の様な深い息を吐く。
「相変わらず仲が良いですよね、2人とも」
羨ましそうに話すソフィアにアルベルとクリフは顔を見合わせた。
「そうだ、クリフさん。フェイト見掛けませんでしたか?」
「あ、ああ、いたぜ?」
「どの辺にいました?」
クリフはアルベルを探していた時の事を思い出した。
その時の事をソフィアに話していいのか一瞬躊躇したが、隠しても無駄だと思い結局話すことにした。
「協会側の中央広場で年上の女と楽しそうに話してたぜ」
「・・・・・・」
クリフがそう言った瞬間、ソフィアの周りの温度が確実に数度下がった。
そうですか、と呟いて俯いてしまったので背の高い2人には彼女の表情が良く分からなかった。
ソフィアは無言で2人から離れ、装備品や道具類をしまってある袋の中をあさり始める。
目当ての物はすぐに見つかったらしく、それを掴んで中から取り出した。
それを見て、仲間の中でずば抜けて戦闘能力の高いクリフとアルベルが軽く冷や汗をかいた。
ソフィアが取り出したのはATK+1000×2とバトルブーツ×5と星の小妖精を合成した鉄パイプだった。
あれで殴られたら確実に死ぬ、と2人は思った。
「アルベルさん、私用事が出来たんでもう行きますね」
「あ、ああ・・・後は1人で大丈夫だ」
「じゃあ頑張ってください」
そう言ってソフィアは一度鉄パイプを握り締める。
その時にみしり、と鉄パイプが軋む音が聞こえたのを2人は気のせいだと思いたかった。
そして、ソフィアは2人に笑顔を向けたままファクトリーを出て行った。



「・・・で、お前は何作ってたんだ?またパフェとかか?」
ソフィアが立ち去った後、クリフは元の本題へと話題を変えた。
ついでにもう一度アルベルの細い身体を抱き締めようとしたが、さり気なくアルベルに抵抗された。
「クリフ、腹減ってるか?」
「そういえば、腹減ったな。それがどうかしたのか?ソフィアがあんなだから昼は暫くお預けそうだぞ」
不思議そうな口調で答えたクリフにアルベルは安心した様に笑った。
「そこに座ってちょっと待ってろ」
何も答えずにただそれだけ言うアルベルにクリフは首を傾げながら、仕方なしにファクトリーで食事をする時に使っている椅子に座った。
アルベルはその間に完成させた料理を器に盛り付け、クリフと自分の分を運んでいった。
昼食は当分お預けだと思っていたクリフはアルベルが運んで来た料理を呆気に取られた様子で見つめ、次いで期待を込めた眼でアルベルを見つめた。
「アルベル・・・これ・・・?」
「作ってみた・・・食べてみてくれ・・・」
微かに頬を染め、恥ずかしそうに言うアルベルをクリフは思い切り抱き締めたくなった。
しかし折角作ってくれた料理を無駄にする訳にはいかない。
何よりアルベルガ自分の為に手料理を作ってくれたのは、これが初めてなのだ。
クリフはわくわくしながら一口食べてみた。
「・・・どうだ?」
自分の分を食べるのも忘れ、アルベルは食事を進めるクリフをじっと見つめた。
「すげーうまい」
「ホントか?」
「あぁ」
クリフは本当に嬉しそうに笑いながら、食べている。
クリフを喜ばせようと思い、食事を作ったアルベルはそんなクリフの姿を見て、無邪気な子供の様に笑った。



「なぁ、アルベル」
「・・・何だ?」
アルベルが食べ終わるのを待ってからクリフはふと話しかけた。
「デザートとかはないのか?」
このクリフの言葉にアルベルはきょとんと眼を見張る。
それからほんの少し小首を傾げた。
「食べたかったのか?悪いが、作ってない」
そう言ってアルベルは律儀に2人分の食器を洗い場へ運ぶ。
普段ならそんな事はしないだろうに、それらを洗い始めた。
「珍しいな。クリフは甘い物が苦手だからいらないかと思った」
そう言いながら洗い物をするアルベルに、クリフはこっそりと近付いて後ろから抱き締めた。
びくりとほんの少し反応をするが誰もいないせいか今度はそれ以上抵抗はされなかった。
「デザートならここにあるだろ?」
「は・・・?」
「まあ俺にとってはある意味メインだけどな」
最初、クリフの言葉の意味が理解できなかったアルベルだが、軽々と抱き上げられた時に漸くその意味を察した。
「ちょっと待て!クリフ!」
慌てて講義をするがもはや手遅れに近い。
既にその気になっているクリフは楽しそうにアルベルの腰を撫でている。
「別にいいだろ?」
「良くねぇ!」
力一杯断言すると、突然身体を降ろされた。
何なのかと思い顔を上げると、少しだけ傷ついた表情を浮かべたクリフと目が合った。
「・・・嫌なのか?」
表情と同じ傷ついたような声で真剣に問われる。
アルベルは言葉に詰まらせた。
このまま流されてしまいそうな自分に、これは罠だと言い聞かせる。
アイツはああやって自分が折れるのを誘導しているのだと心の中で叫んだ。
「・・・アルベル」
静かに答えを要求してくるクリフにアルベルはますます黙り込む。
アルベルはクリフのこういう声や表情が苦手だった。
「・・・じゃない」
「ん?」
ぽつりと呟いた声が聞き取れずクリフは首を傾げながらアルベルの顔を覗き込んだ。
「嫌じゃないって言ってんだよ・・・!」
アルベルは顔を真っ赤にしながら叫ぶように言い放つ。
結局流されてしまったアルベルは俯いていた顔を上げてクリフを見上げた。
そして今言った事を早くも後悔した。
締まりのない顔でニヤリと笑っているのだ。
「嫌じゃないのか。よし、じゃあ行こうぜ」
そう言ってまた軽々と抱え上げられた。
アルベルは大人しくされるがままになっていた。
けれど心の中では今度こそ流されはしない事を誓っていたが、それも無駄な努力だという事をアルベルはまだ分かっていなかった。






おまけ

「あら、ソフィア。物騒な物を持って何をしてるの?」
「あ、マリアさん。それにネルさんも」
「・・・ソフィア。その鉄パイプにやけに真新しい血が付いてるけど何かあったのかい・・・?」
「いいえ、大した事はなかったですよ。ちょっと振り回してみたい気分だったんで」
「そうなのかい・・・?」
「・・・敢えて追求はしないけど。昼食はいつ頃になるのかしら?」
「あ!すみません。すぐに作りますね」
「ソフィアの持ってる異様に大きい袋も気になるんだけど、これも聞いちゃまずいのかい?」
「ネル。知らない方がいいわよ」
「・・・小さな血痕が・・・転々と・・・」





あわわわわ・・・(震)このまま旅に出ていいですか?
何か今になって恥ずかしくなってきた!あ、甘々・・・笑えるくらいに甘々。
前、これ以上の甘い話を書いてた事があるというのになんだ、この恥ずかしさ。
テーマは乙女アルベルだったりします。それだからこんな話が出来ちゃうんだよー。

実はこの前に書く予定だった話が「かっこいいアルベル」を目指した話でした。
クリアルじゃないどころかフェイト達がまだエリクールに来る前の時の妄想話なんですが、読みたい人いますか?(ここで聞くな)




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